自尊心から「セルフ・コンパッション」(自分に対する思いやり・憐み)へ。


幸福に関する本を読んでいると、よく出てくる単語があります。その一つに、思いやり・憐み(compassion)があります。

アミット・スード博士の定義によると、思いやり・憐み(compassion)とは、「他人の幸せだけでなく、その悲しみも、その人と同じように感じること」。たとえば、他人に悲しい出来事が起きました。その人が感じる悲しさを、自分も同じように感じること。このようなことだと思います。

思いやり・憐みの効果

思いやり・憐みには、よい点が多くあるそうです。たとえば、思いやりを受けたり、与えたりすると、より健康になる。ストレスが和らぎ、より幸せになれる。自分の置かれている困難な状況を忘れることができる。

ただ、思いやりを受けたり、与えたりするのは、なかなか難しいことではないでしょうか。思いやりを受けるためには、自分の身の回りに、思いやりにあふれる人がいなければいけません。また、思いやりを与えるためには、自分が思いやりにあふれる人でなければいけません。ちょっと、ハードルが高い(笑)。そんな感じがしますが、どうでしょうか?

まずは、自分に対して思いやりを持つこと

「思いやり・憐みを持つことは、私たち(自分)の望ましくない部分に対して思いやり・憐みを持つことから始まります。そして、終わりもそこなのです。癒しが起こるのは、どんなことに対しても思いやり・憐みを持てたときです。たとえそれが深い悲しみであっても、安堵の気持ちでも、大きな苦しみでも幸せでも」。ペマ・チョドロン(チベット仏教僧)の言葉です。

自分の望ましくないところに思いやり・憐みをもつ。そこに始まり、そこで終わると言っています。でも、それは簡単ではないのではないでしょうか。自分の嫌なところに、思いやりを持つ(受容する)のですから。どちらかと言えば、嫌な点はなくしたい、直したいという気持ちになるのではないでしょうか。

自己批判のワナ

「こんなにびくびくしていて、私は弱い」。
「口数が少ない私は、普通じゃない」。
「友だちもそれほどいないし、活動的な社会生活も送っていない。私にはどこか欠点があるんだ」。
「私は敗者だ」「私は変わり者だ」「私は退屈な人間だ」。

私たちは、このような自己批判をしがちです。このような自己批判をすることで、自分を変えられる。そんな風に考えて、自己批判をしてしまうことがあるそうです。でも、こうしたやり方は、うまくいかないかもしれないといいます。自己批判によって、自分をダメな存在だと誤解してしまうからです。

自尊心のワナ

「もっともっと努力しよう。頑張ろう。一番を目指すんだ」。私たちの住む社会は、何を成し遂げたか、その人の業績・成績を重視します。小さい頃から、競争に勝つことで自尊心を築くように教えられます。しかし、クリスティーン・ネフ(心理学者)は、こうしたことが「不必要で非生産的な苦しみ」の原因になっていると言います。

研究によると、ほとんどの人が、自分はあらゆる点で平均以上で、他者よりもよいと思っているそうです。しかし、人と比較したり、競争に勝つことを自尊心の前提とすると、他者をライバルとしてみるようになります。すると、他者とのつながりが失われます。

また、どんなときも、他人よりもよい。そんなことは、まず不可能です。研究によると、人は負けたとき、自己批判に陥りがちなのだそうです。批判されると、自分を守りたくなります。もう失敗しないように、間違えないようにと思うようになって、将来困難に直面したときにも、簡単に諦めてしまうようになるかもしれません。

また、競争をベースとした自尊心は、孤独、孤立、偏見という社会問題と結びついているともいいます。

自尊心ではなく、自分に対する思いやり・憐みをもつ。

クリスティーン・ネフは、こうした自尊心の陥るワナを観察して、他の方法がないかと探しました。自分の目標を立てて、それを実現する過程で、自分を痛めつけず、他者をも痛めつけない。すると、セルフ・コンパッション(自分に対する思いやり・憐み)の考え方を、仏教の中に見つけたのです。

自分は他者よりよいから、自分には価値がある。これは自尊心の考え方です。セルフ・コンパッションは、こんな考え方はしません。自分は本来的に、他者と同様、保護と関心に値する存在。これがセルフ・コンパッションです。自尊心をよりどころとすれば、私たちは無力になります。しかし、セルフ・コンパッションをよりどころにすれば、自分をコントロールでき、内から力が湧いてくるといいます。

感想

「自分はダメだ」。他人と比較して、このように自己批判してしまうことは、案外多いのではないでしょうか。また、世間も、そんな評価をします。成績や業績が悪いと、ダメな奴だと言われます(笑)。でも、成績や業績は、一時的な幸福しか与えてはくれません。

また、私たちの脳や心は、もともと不完全で、生きるための衝動に動かされている部分があるといいます。完全な人など、この世の中に一人もいないのではないでしょうか?だとしたら、ことさらに自分を責める必要はないはずです。比較する必要もありません。50歩100歩なのだから。

でも、自己批判してしまいがちなんですよね。そこで明日は、どうしたら自己批判しないで、自分に思いやりを持てるか。その方法と、セルフ・コンパッションの素晴らしい効果をご紹介したいと思います。

参考:
Emma Seppälä, Ph.D. 「Self-Compassion Outweighs Self-Esteem for Resilience & Empowement
Amit Sood, M.D. 「The Mayo Clinic Handbook for Happiness」
Barbara Markway Ph.D. 「Why Is Self-Acceptance So Hard?」
Toni Bernhard J.D. 「Tapping into Self-Compassion to Help Ease Everyday Suffering」

 


hidenorin
翻訳者。早稲田大学商学部卒業。名城大学大学院法務研究科(法学既修者コース)2016年修了。 全国珠算教育連盟珠算検定試験1級。TOEIC940。 趣味は読書、水泳、写真撮影です。

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